石井熱錬の真空浸炭・高濃度浸炭で鋼材を改質
「内部の靱性は保ったまま、表面の硬度を上げたい」といったご要望にお応えできるのが、「石井熱錬」の真空浸炭および高濃度浸炭による処理です。安価な鋼材であったとしても、熱処理を加えることで品質の向上ができ、大幅なコストダウンなどにもつながるでしょう。また、処理が難しいとされていたオーステナイト系ステンレスにも対応が可能です。
真空浸炭~品質向上&ステンレスにも対応~
真空浸炭は従来のガス浸炭に比べ、高い疲労強度を実現できる熱処理方法です。低炭素鋼を加熱し浸炭を行うことで、炭素(C)が表面に拡散。その後焼入れを行うことで、表面が高炭素濃度化し、高硬度・耐摩耗性が向上します。また、内部は低炭素濃度のままとなるため、優れた靱性も同時に得られます。安価な銅材であったとしても改質が可能になるため、コストダウンにも有効です。
また、真空浸炭はその名の通り真空状態の炉内で処理を行うので、素材の表層部に粒界酸化が起こりません。表面への酸素混入はヒビ(浸炭異常層)の原因にもなるため、仕上がりの品質向上につながる大きなメリットと言えます。また、浸炭ムラの防止にもつながるので、仕上げ作業が不要となった分、短納期とローコストが実現できます。
さらに、セメンタイトが球状になるため被削性が高まり、軸受鋼の疲労強度向上、工具鋼の靱性改善が期待できます。その他にも、希望の表面炭素量と浸炭深さの値を正確に実現し、狭いすき間や深い止まり孔でも均一な浸炭が可能。お客様からのさまざまなご要望に対応できるのも、真空浸炭のメリットです。
難浸炭材(SUS304等)に対しても対応が可能
以前までは、オーステナイト系のステンレスは材質と設備上の制約があったため、熱処理を行うのは難しいと言われていました。しかし、当社が導入している真空浸炭設備「VCB-01」では、オーステナイト系のステレンレスの代表とも言われるSUS304の浸炭が可能となります。SUSが持つ耐食性は維持しつつ、表面硬化が実現すればさまざまな分野の製品開発への活用が期待できます。
作業効率化とコスト削減
真空浸炭には、作業効率化とコスト削減に貢献できるさまざまな特徴があります。当社ではこうした特徴を活かし、余計な費用をカットすることで、サービスを低価格でお客様にご提供しております。
- 熱処理時間の短縮化
- 炉の立ち上がり・停止のスピードアップ
- 放熱損失が少ないため省エネ
- 仕上げ作業が不要
真空浸炭炉内は完全密閉となり、炎・煙の発生がありません。そのため、火災や爆発のリスクがなく安全です。さらに、地球温暖化などの原因とされているCO2の排出もないため、環境保護にも貢献ができます。省エネだけでなく、こうしたメリットも同時に持ち合わせていることが真空浸炭炉の大きな特徴です。
真空浸炭・高濃度浸炭の特徴
以下はガス浸炭、真空浸炭、高濃度浸炭との比較表です。
ガス浸炭 | 真空浸炭 | 高濃度浸炭 | |
---|---|---|---|
到達硬度 | 700HV | 700HV | 800~1000HV |
極浅浸炭[0.05~] | 難 | 可 | 難 |
極深浸炭処理時間 | 長い | 短い | - |
対応鋼種 | 肌焼鋼 | 肌焼鋼 | 特殊鋼全般 |
ステンレス浸炭 | 難 | 可 | 可 |
高温耐摩耗性 | 焼戻軟化 | 焼戻軟化 | 炭化物硬さを維持 |
浸炭異常層 | 有り | 無し[ショットピーニング硬化大] | 無し |
組成組織 | マルテンサイト | マルテンサイト+炭化物 | |
炭素含有濃度 | 0.8%狙い | 0.8%狙い | 0.8~2.0%程度 |
高濃度浸炭~より硬く・高性能を目指して~
真空浸炭の手法を使いつつ、さらに多くの炭素を鋼に含ませるために、マルテンサイトのマトリットスに粒状の炭化物を生成し分散させるのが高濃度浸炭です。JISでは「炭化物分散浸炭」とも呼ばれます。炭化物が表層で析出することにより表面の硬さが高くなり、耐摩耗性、耐ピッチング性、耐熱戻し軟化耐候性が向上。強度が必要となる歯車やスライド板などに利用されます。
高濃度浸炭とは
表面付近の炭素濃度を上昇後、組織の中に炭化物を析出させ、その炭化物を球状で安定な状態に保つ処理の事を言います。
球状の炭化物を析出させる事で、表面硬度の上昇が図れます。その結果、各種の機械的性質が上昇し、球状であるため摺動性、離型性にも寄与する組織といえます。またコーティングやメッキと異なり、硬化層として鋼材内に生成しますので、面圧や衝撃による剥離の心配もありません。
現在弊社では、浸炭用鋼材への実績はもちろん、あらゆる鋼種への研究をしています。
炭素濃度のコントロールは、肌焼鋼と呼ばれる材料以外にも有用であり、炭化物の組成温度域までの焼戻軟化抵抗も上昇します。
特に金型用鋼などは求める特性と処理によって得られる特性が多く、一致する鋼種の一つと言えるでしょう。
表面硬度
従来の浸炭と比較した際、高濃度浸炭はビッカース硬度で1000以上の数値を実現します。さらに、高温下であっても硬度が低下しないという特徴も併せ持ちます。
耐摩耗性
表面の硬度が高く、温度の上昇時でもあっても変化がないため、耐摩耗性に優れています。結果として、ライフサイクルコストの削減にもつながります。
JIS鋼材でも成果が発表済
高濃度浸炭を行う場合には、硬化の目的に応じて条件を設定し、製品特性の要求に対しての試験の実施が必要です。なお、現在自動車メーカーなどの産業機械メーカーは材料の開発と熱処理の手段を同時に研究し続けていますが、JIS鋼材でも成果がすでに発表されています。