石井熱錬 ~COLUMN~

vol.1真空浸炭と高濃度浸炭について

鋼を焼入れしたときの硬さは、炭素の含有量でほぼ決まります。したがって、低炭素鋼の表面から炭素を十分に浸透させれば、内部の靭性を確保しながら表面の硬度を上げることが可能になります。これが「浸炭処理」と呼ばれるもので、安価な鋼材でも高品質鋼のような特性に改質できる技術として知られています。

 

この浸炭処理は、窒化処理、高周波焼入れなどと同様、鋼の表面硬化を目的とした処理のひとつですが、なかでも真空浸炭、高濃度浸炭は従来の標準的な浸炭処理であるガス浸炭と比べ、さまざまな優位点を持っています。

 

「株式会社石井熱錬」が熱処理の新技術をご紹介するこのコラム。第一弾はこの真空浸炭、高濃度浸炭について取り上げます。

 

 

ガス浸炭の短所をカバーする真空浸炭

まず、真空炉内で処理を行うため真空浸炭では粒界酸化や浸炭ムラが生じません。とくにヒビや欠けなどの要因となる表面への酸素混入がないため優れた仕上がり品質が期待できます。もちろん、表面硬度に加え内部の靭性が確保できるので、疲労強度が必要な軸受鋼や靭性が不可欠な工具鋼に活用できるといった利点もあります。

 

さらにこれまで難浸炭材とみなされてきたSUS304などのステンレス鋼も、真空浸炭なら高い耐食性を維持しながら表面を硬化させることが可能です。また熱処理や操業時間の短縮が図れるなど、生産性に優れていることも真空浸炭の特色のひとつとなっています。

 

真空浸炭とガス浸炭の比較
諸特性 真空浸炭 ガス浸炭
表面の粒界酸化 なし あり
浸炭ムラ なし あり
細孔内面浸炭 できる できない
SUS鋼への応用 できる できない
高濃度浸炭・深浸炭対応 できる 難しい
セメンタイト球状化 あり なし
CO2排出 なし あり
熱処理時間の短縮・コスト削減 できる 難しい

 

唯一の泣き所をカバーするアセチレン浸炭

この真空浸炭にも唯一の泣き所があります。それが煤の発生。炉内に直接、炭化水素系ガスを供給する関係で熱分解によって大量に煤が発生するため、炉のメインテナンスが煩雑になり、操業やコストの面で不利になっていました。この欠点を解消したのがアセチレン浸炭。浸炭ガスに不飽和炭化水素(アセチレンガス)を用い、炉内に低い圧力でパルス状に供給することで煤の発生を効果的に抑える処理法です。

 

より優れた表面硬度が得られる高濃度浸炭

従来のガス浸炭、真空浸炭よりも一層の表面硬度が得られ、しかも耐摩耗性や耐ピッチング性、耐熱戻し軟化抵抗性を確保できる新しい熱処理法が高濃度浸炭と呼ばれるもの。これは、鋼材表面の炭素量を従来の浸炭方法の数倍にあたる2~3%にまで上げ、マルテンサイトのマトリックスに粒状の炭化物を生成し、分散させる浸炭技術です。この処理の特徴である材料表面での高硬度は、炭化物が表層で析出することにより生じるもので、とくに強度が必要となる歯車やスライド板などに広く用いられています。

 

高濃度浸炭の特色
高い表面硬度 ガス浸炭、真空浸炭で達成できる鋼材の表面硬度はビッカース指標で700HV程度ですが、高濃度浸炭では1000HV以上に達します。さらに。こうして加工された鋼材は高温下でも硬度が下がりません。
優れた耐摩耗性 1000HV以上の表面硬度が高温下でも変化しないことから、優れた耐摩耗性を発揮します。とくに強度を必要とする部品や摺動部品などに用いることで大幅な長寿命化、コスト削減が期待できます。
JISが実証済み 一般に高濃度浸炭による表面処理を行う場合は、硬化の目的に応じて条件を設定し、製品仕様を満足させるかどうかを試験する必要があります。しかしすでにJIS鋼材の一部には高濃度浸炭による製品がすでに発表されています。

 

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